結果報告編第2回のテーマは、“シェアハウスの性能”です。健康、安心、寛容性・多様な交流、エコの4つの項目に分けて、シェアハウスの住まいとしての性能に関する調査結果を解説してゆきます。
こちらは、シェアハウス入居者へのインタビュー調査から、健康面に関するコメントを取りまとめたものです。
健康(身体面、精神面、暮らしなど) | |
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Aさん | 会話によってストレスを解消することができる 不摂生していると野菜を採るようにアドバイスをもらえる |
Bさん | 精神的には健康だと認識するが、気持ちの波は生じると感じる ヨガを継続できる 食べ過ぎになりがち |
Cさん | 運動する機会が増えた 誰かといることに抵抗がなければ精神的にはすごくいいと思う |
Dさん | ウォーキングなどしたが特に変化は感じない 今は大丈夫だが人間関係でストレスを感じていた時期もある |
Eさん | ウォーキングなどが継続できる 自炊が楽しくできる 飲酒の頻度が高くなってしまう |
Fさん | 生活が規則正しくなった 繋がりを感じることができ、精神的に健康に感じる |
Gさん | ランニングが続いた 精神的には安心 |
Hさん | 自分は大丈夫だが、人と暮らすことがストレスに感じる人もいるという認識 食生活ではスペースや調理器具のおかげで自炊ができ、健康になった |
Iさん | 1人暮らしよりも寂しくない |
多くの回答者が交流や社会的な繋がりによる効用を感じています。
マイナス面では、人間関係のストレスやシェアハウスでの生活の向き不向きを指摘する回答がありました。
多くの人が運動や自炊の継続性向上などの身体的健康に繋がる効用を認識しています。
マイナス面では、(冗談交じりではあるものの、)お裾分けによる食べ過ぎや飲酒といった不健康に繋がる要因が指摘されています。
下記は、シェアハウス入居者の健康と居住期間との相関関係について、アンケート調査の結果から分析・評価を行った結果です。
相関係数(Spearmanのρ)
居住期間 | 身体的健康 | 精神的健康 | ||||
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居住期間 | 相関係数 | 1.000 | .023 | .037 | ||
有意確率 (両側) | . | .611 | .410 | |||
身体的健康 | 相関係数 | .023 | 1.000 | -.145** | ||
有意確率 (両側) | .611 | . | .001 | |||
精神的健康 | 相関係数 | .037 | -.145** | 1.000 | ||
有意確率 (両側) | .410 | .001 | . |
**. 相関は、1 % 水準で有意となります (両側)。
上記のような結果となり、シェアハウス入居者の健康と居住期間に有意な相関関係は認められませんでした。シェアハウス入居者の健康とシェアハウスでの生活は、有意に関係があるとは言えないようです。
過去の内閣府や株式会社日本総合研究所の調査報告書を基に、シェアハウス入居者のソーシャル・キャピタルの統合指数(以下、「SC指数」)を構築しました。そしてシェアハウス入居者をSC指数の高低に応じてA〜Cの3つのグループに分け、各グループの平均値を比較してゆきます。
A:SC指数上位131名(約25%) B:SC指数上位260名(約50%) C:SC指数上位131名(約25%)
この結果、SC指数と健康との関係は以下のようになりました。
A | B | C | 解説 | ||
---|---|---|---|---|---|
健康 | 身体的健康 | 52.4 | 51.6 | 51.3 | 高いほど身体的健康良い |
精神的健康 | 47.4 | 47.0 | 46.3 | 高いほど精神的的健康良い |
SC指数が高いグループ(ソーシャル・キャピタルの高い人達)ほど、身体的健康や精神的健康が高くなっていることが読み取れます。
こちらは、シェアハウス入居者へのインタビュー調査から、安心感に関するコメントを取りまとめたものです。
安心感(防犯面、病気の時など) | |
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Aさん | 病気の時に安心、援助が期待できる |
Bさん | 病気の時や、ゴキブリが出た時に安心 防犯面で人がいるという意味で安心感がある |
Cさん | 風邪を引いた時は安心感がある 治安面では1人暮らしの時よりも安心感がある 玄関の施錠など、セキュリティ面での安全には疑問 |
Dさん | 顔見知りが多い事による安心感はある 風邪を引いたり足を痛めた時など安心感がある 玄関の施錠などは不安 |
Eさん | 風邪を引いた時などは相談できたり、支援を期待できるので安心 1人暮らしよりも人がいる安心感がある |
Fさん | 鍵の締め忘れに不安 地震などが起きても、協力しあえるので安心 |
Gさん | 複数人で住んでいるので、火事や防犯などに責任を感じる 他の人に見ていてもらえるのは安心 |
Hさん | 防犯面では安心 以前で他の入居者に薬を買ってきてもらった事がある |
Iさん | 風邪をひいた時に他の入居者が食事を作ってくれた事がある 防犯面でも安心 |
9名中5名が、シェアハウスに住むことによる防犯面での安心感について言及しています。ただし、玄関の鍵の掛け忘れについて、3名が安全面の不安を回答しています。また、全員が病気 になった時の安心感を回答しており、多くの人が実際に他の入居者に援助をしてもらった経験について言及しています。
下記は、シェアハウス入居者の安心感と居住期間との相関関係について、アンケート調査の結果から分析・評価を行った結果です。
相関係数(Spearmanのρ)
居住期間 | 他の入居者の心強さ | 犯罪の不安感 | ||||
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居住期間 | 相関係数 | 1.000 | .074 | .074 | ||
有意確率 (両側) | . | .095 | .095 | |||
他の入居者の心強さ | 相関係数 | .074 | 1.000 | .033 | ||
有意確率 (両側) | .095 | . | .452 | |||
犯罪の不安感 | 相関係数 | .074 | .033 | 1.000 | ||
有意確率 (両側) | .095 | .452 | . |
上記のような結果となり、シェアハウス入居者の安心感と居住期間との間に有意な相関関係は認められませんでした。ただし安心感に関する回答結果では、約7割の人が他の入居者の存在を心強いと感じています。
また、犯罪不安感に関する回答結果では、シェアハウスに入居している女性は一般の単身未婚女性と比較して不安を感じた経験が少ない事が分かりました。
このように、インタビューやアンケートの両方で入居者の多くがシェアハウスで生活する事による安心感の向上を認識している事が読み取れます。シェアハウス入居者の安心感は居住期間とはあまり関わりが無いようですが、シェアハウスに入居する事自体で発生しているのかもしれません。
シェアハウス入居者の健康とSC指数との相関関係を評価した結果は、下記の通りとなります。
A | B | C | 解説 | ||
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安心感 | 他の入居者の心強さ | 3.02 | 2.91 | 2.59 | 高いほど他の入居者を心強く認識 |
犯罪の不安感 | 2.66 | 2.63 | 2.53 | 高いほど治安面での不安低い |
SC指数が高いグループほど、他の入居者の心強さや犯罪への安心感が高くなっている事が分かります。
ソーシャル・キャピタルの高い人ほど、安心感が高い傾向があるようです。
こちらは、シェアハウス入居者へのインタビュー調査から、寛容性・交流の多様さに関するコメントを取りまとめたものです。
寛容性・交流の多様さ | |
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Aさん | こんな人もいるのか、という感じになった |
Bさん | 寛容にならざるを得ない 個人的には変化していない |
Cさん | 人との付き合い方は変化していない |
Dさん | 価値観が同じ人と付き合うのがベスト |
Eさん | 価値観や交流の幅は広がった |
Fさん | 自分の価値観を大切にするようになった |
Gさん | 違う価値観の人に出会うことができた |
Hさん | 見知らぬ人に対しての認識に変化はない |
Iさん | 特に変化はない |
価値観や交流の幅が広がった、自分に近い価値観を大切にするようになったといった回答が散見される一方、特に変化が無いという人も多いようです。シェアハウスに入居した事で生まれる寛容性・交流の多様さに関する変化には、個人差があるようです。
下記は、シェアハウス入居者の寛容性・交流の多様さと居住期間との相関関係について、アンケート調査の結果から分析・評価を行った結果です。
相関係数(Spearmanのρ)
居住期間 | 反差別的態度 | 違いへの態度 | ||||
---|---|---|---|---|---|---|
居住期間 | 相関係数 | 1.000 | .039 | -.037 | ||
有意確率 (両側) | . | .394 | .460 | |||
反差別的態度 | 相関係数 | .039 | 1.000 | .216** | ||
有意確率 (両側) | .394 | . | .000 | |||
違いへの態度 | 相関係数 | -.037 | .216** | 1.000 | ||
有意確率 (両側) | .460 | .000 | . |
**. 相関は、1 % 水準で有意となります (両側)。
相関係数(Spearmanのρ)
居住期間 | 祭行事への参加 | 相談ネットワーク | ||
---|---|---|---|---|
居住期間 | 相関係数 | 1.000 | .037 | .054 |
有意確率 (両側) | . | .419 | .222 | |
祭行事への参加 | 相関係数 | .037 | 1.000 | .167** |
有意確率 (両側) | .419 | . | .000 | |
相談ネットワーク | 相関係数 | .054 | .167** | 1.000 |
有意確率 (両側) | .222 | .000 | . |
**. 相関は、1 % 水準で有意となります (両側)。
上記のような結果となり、シェアハウス入居者の寛容性や交流の多様さと居住期間との間に有意な相関関係は認められませんでした。
シェアハウス入居者の寛容性とSC指数との相関関係を評価した結果は、下記の通りとなります。
A | B | C | 解説 | ||
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寛容性 | 反差別的態度 | 4.26 | 4.34 | 4.36 | 高いほど差別的振る舞いに同調しない |
「違い」への態度 | 0.46 | 0.43 | 0.38 | 高いほど受け入れられない「違い」がない |
SC指数が高いグループ(ソーシャル・キャピタルが高い人達)ほど、差別的な振る舞いに同調しない傾向が低い一方、受け入れられない違いは無いと考える傾向が強いという結果が得られました。ソーシャル・キャピタルの高い人ほど分け隔てなく行動できるという事ではないようですが、多様な価値観を認めるという意味での寛容性は高い傾向にあるようです。
続いて、シェアハウス入居者の交流の多様さとSC指数との相関関係を評価した結果は、下記の通りとなります。
A | B | C | 解説 | ||
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交流の多様さ | 地域の祭・行事参加 | 2.18 | 1.93 | 1.56 | 高いほど地域の祭・イベントに参加 |
相談できるネットワーク | 2.99 | 2.56 | 2.01 | 高いほど相談できるネットワーク多い |
SC指数の高いグループ(ソーシャル・キャピタルが高い人達)ほど、地域の祭りや行事への参加が多く、相談できるネットワークが多いようです。
こちらは、シェアハウス入居者へのインタビュー調査から、エコロジーに関するコメントを取りまとめたものです。
エコロジー(意識、暮らし) | |
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Aさん | 光熱費一律だから全く意識していない |
Bさん | 1人暮らしの時より意識が低下した ゴミの分別もしなくなった |
Cさん | 節約するという意識はない |
Dさん | エコロジーへの意識はない |
Eさん | あまり気にしなくなった |
Fさん | モノを共有できるのは省エネになる ゴミの出し方を気にするようになった |
Gさん | モノや設備の共有により地球に優しい認識 |
Hさん | 捨てる物が少なくて済む無駄の少ない生活という認識 |
Iさん | 電気のつけっぱなしを指摘してもらう |
エコロジーに対する意識について、9名中5名がシェアハウスに入居して意識が低くなったと回答しています。光熱費が毎月定額という料金体系に影響を受けた結果とする声が出ている一方、ゴミ出しを当番制にしているためゴミの出し方を気にするようになったという回答もあります。エネルギー消費やエコロジーの観点からは、シェアハウスの運営体系にはまだ改善の余地があるのかもしれません。
次に、シェアハウス入居者のエネルギー消費(電気、ガス)と、それらによる二酸化炭素排出量を【比較方法】に示すような条件で算出し、一般の単身世帯との間で1人当たりの比較を行うと以下のようになります。
シェアハウス | 単身世帯 | 効率 | |
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電力消費量 | 94.99kWh/人・月 | 108.9 kWh/人・月 | 12.8%効率 |
都市ガス消費量 | 6.63m³/人・月 | 6.2m³/人・月 | 6.9%非効率 |
二酸化炭素排出量 | 49.7kg/人・月 | 52.2kg/人・月 | 4.8%効率 |
シェアハウスは、電力消費量と二酸化炭素排出では効率的、都市ガス消費量では非効率的という結果です。
基本的には一般家庭と同様、複数人で住むことで空調や照明を共同利用できる効果が出ている事が推測できます。また、都市ガス消費量は非効率という結果が出ていますが、これは一般の単身世帯と比較してシェアハウスの入居者が頻繁に自炊を行うためと推測できるので、必ずしもネガティブな結果とは言えないでしょう。
ただし、電力消費量に関しては、上記比較では除外した30人以上の入居規模の物件では非効率という傾向が出ました。このような物件を含めると、1人当たりの消費量と排出量は電力が133.19 kWh/人・月、都市ガスが7.06m³/人・月、二酸化炭素が69.31kg/人・月となり、いずれも一般の単身世帯より非効率となります。様々な理由が推測されますが、いずれにしてもエネルギー消費の観点で今後の課題であると言えるでしょう。
エネルギー消費を考察するには、季節による変動を考慮する必要があります。電力は冬と夏に、都市ガスは冬に消費のピークがあります。今回はシェアハウスの運営事業者へのアンケート調査によって2009年9月の電力消費量、都市ガス消費量のデータを取得し、総務省の家計調査の同じ月の年齢構成が等しい単身世帯の消費量・排出量と比較しています。これは、複数人で住むことで空調や照明を共同利用できるため、1人当たりの電力やガス使用量、それらの消費による二酸化炭素排出量が世帯人員によって大きく変動するためです。例えば単身世帯の居住者は4人家族の居住者の約1.5倍、電力やガスを消費します。電力消費量と都市ガス消費量の料金換算は、それぞれ東京電力と東京ガスの料金メニューを、二酸化炭素排出の計算は『「身近な地球温暖化対策」〜家庭でできる10の取り組み〜』(全国地球温暖化防止活動推進センター)を基に算出されています。なお、電力消費量と都市ガス消費量の比較では、前提条件が異なるためオール電化の物件は除外しています。また、30人以上の入居規模の物件では目立って非効率な傾向が見られたため、棟数の割合等を考慮し全体の比較では除外しています。